週末のG20観戦ガイド:注目点と予想を解説

2019-06-06 11:40[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン

(要約)
・6月8-9日に福岡で日本を議長国としてG20財務相中銀総裁会議が開催される。国境を跨ぐ仮想通貨の世界にルールを適用とするにはグローバルで足並みを合わせる必要があるので重要。

・今回のG20ではマネロン対策(AML/CFT)以外の分野でグローバルな規制の方向性が打ち出されるかに注目。

・共同声明の仮想通貨に関する部分は、総合評価、金融システムへの影響、AML/CFTの3つのパートに分かれる。

・総合評価は大きな変更がないだろう。もしあればポジティブサプライズだ。国際社会は金融包摂、低コストの送金が貧困対策に役立つ点を評価している。

・金融システムの部分で、世界標準のルール作りを始める事となればポジティブサプライズだ。社会に認められるには社会のルールを守る必要がある。

・AML/CFTの部分ではサプライズは無いと考えるが、国外や分散型交換所への規制に言及があればネガティブサプライズか。

注目は今週末の財務相中銀総裁会議

6月8-9日に福岡で日本を議長国としてG20財務相中銀総裁会議が開催される。28-29日には大阪で首脳会談が開催される。G20財務相中銀総裁会議として1999年から始まったが、2008年より首脳会談も開催される事となった。その背景にはBRICsを中心とした新興国の台頭があり、オバマ政権もG7(当時はG8)よりG20を重視する姿勢を取ったとされる。今や今年8月にG7が開催されるビアリッツがどこにあるかさえ知る人は少ないだろう。G20にはほぼ世界のGDP上位国が参加しており、参加国GDPを合計すると世界の約9割を占め、2009年のピッツバーグG20で「国際経済協力の第一の協議体」とされている。一方で、最近は米中の対立もありなかなか物事が決まらない機能不全を指摘する声もあるが、重要な会議であることに違いはない。

仮想通貨市場への意味

では、このG20が仮想通貨市場にとってどういう意味を持つのであろうか。本邦では、このG20に間に合わせるように金商法・改正資金決済法改正など仮想通貨関連法案が成立したが、国境を跨ぐ仮想通貨の世界にルールを適用とすると1国だけでは効果は限定的でグローバルで足並みを合わせる必要がある。例えば、日本では世界に先駆けて2016年に改正資金決済法が成立、翌2017年に施行され仮想通貨交換業が登録制となったが、これは国際的なマネロン・テロ対策(AML/CFT)を担うFATF(金融活動作業部会)が2015年に仮想通貨交換所に登録制ないし免許制を導入すべくというガイダンスを出した事に応じたものだった。すなわち仮想通貨を用いたマネロンを防ぐために、法定通貨との交換を登録制として、交換所にKYCや疑わしい取引の報告を行わせるという方法を取ったわけだ。今回、FATFはこの登録制をウォレット業者などに拡大する方針を打ち出しており、今回の仮想通貨関連法改正にも盛り込まれている。後の声明を見てもわかる様に、このFATFのボスは誰かと言うと、G20だ。

注目はマネロン以外

更に弊社が注目するのはFATF以外の規制の方向性が打ち出されるかだ。一時よりは下火になったが、仮想通貨ETFが米国SECに認められるかが注目されているが、承認しない理由の一つとして相場操縦が挙げられている。仮想通貨市場では風説の流布でさえ禁じられておらず、また一部の交換所が特定の通貨の取扱中止をTwitterで呼び掛けたり、かつてはTwitterで特定の草コインの買い上げを予告したりとやりたい放題だ。こうした動きに一石を投じたのが昨年の日本仮想通貨交換業協会の自主規制で、ついに金商法の改正で国内居住者はこうした不正行為が禁じられることとなった。これは画期的な一歩と申し上げて来たが、日本だけ規制をしてもあまり意味がない。そこで、こうした規制を世界規模で協調して導入していく道筋が打ち出されるかが今回のG20の最大の注目点と考えている。非中央集権を標榜する仮想通貨の世界では規制の強化というとネガティブにとらえられ易いが、こうした規制が整備されないと一部のヘッジファンドを除いて機関投資家は参入して来ないし、きちんとしたアセットクラスの一つとして認知はされない。Bakktが注目される一因は実質的にCFTCの監視下で現物取引が可能となることだからだ。今回の上昇相場の一因である国内の仮想通貨業界へのイメージ好転のきっかけは3月15日の上記法案提出であったことを考えれば、やはりルールの整備は長い目で見て相場にはプラスに働くだろう。顧客保護が強化されるからだ。

声明文は3つのパートに分かれる

上記を踏まえて、今回のG20では会談後に出される声明文に注目したい。下は、前2回の財務相中銀総裁会議と首脳会談の声明文の抜粋(出典:財務省HP)だ。

2018年3月19-20日 財務相中銀総裁会議
「我々は、暗号資産の基礎となる技術を含む技術革新が、金融システムの効率性と包摂性及びより広く経済を改善する可能性を有していることを認識する。しかしながら、暗号資産は実際、消費者及び投資家保護、市場の健全性、脱税、マネーロンダリング、並びにテロ資金供与に関する問題を提起する。暗号資産は、ソブリン通貨の主要な特性を欠いている。暗号資産は、ある時点で金融安定に影響を及ぼす可能性がある。我々は、暗号資産に適用される形でのFATF基準の実施にコミットし、FATFによるこれらの基準の見直しに期待し、FATFに対し世界的な実施の推進を要請する。我々は、国際基準設定主体がそれぞれのマンデートに従って、暗号資産及びそのリスクの監視を続け、多国間での必要な対応について評価することを要請する。」

 

2018年7月21-22日 財務相中銀総裁会議「暗号資産の基礎となるものを含む技術革新は、金融システム及びより広く経済に重要な便益をもたらし得る。しかしながら、暗号資産は消費者及び投資家保護、市場の健全性、脱税、マネーロンダリング、並びにテロ資金供与に関する問題を提起する。暗号資産は、ソブリン通貨の主要な特性を欠いている。暗号資産は、現時点でグローバル金融システムの安定にリスクをもたらしていないが、我々は、引き続き警戒を続ける。我々は、FSB及び基準設定主体からのアップデートを歓迎するとともに、暗号資産の潜在的なリスクを監視し、必要に応じ多国間での対応について評価するための更なる作業を期待する。我々は、FATF基準の実施に関する我々の3月のコミットメントを再確認し、2018年10月に、この基準がどのように暗号資産に適用されるか明確にすることをFATFに求める。

 

2018月11月30-1日首脳会談
「我々は,リスクが軽減されつつ,金融セクターにおける技術の潜在的な利益が実現されることを確保するための取組を強化する。我々は,金融活動作業部会(FATF)基準に沿ったマネー ロンダリング及びテロ資金供与への対策のため,暗号資産を規制し,必要に応じて他の対応を検討する。」

 

総合評価

最後の首脳会談は多くの議題をこなすので短く触れているだけだが、財務相中銀総裁会議ではかなりのウェートを占めていて、字数ベースでは昨年3月で全体の8%、同7月では9.4%に上昇している。中身を見ると3つのパートに分かれている事が分かる。まず、暗号資産の評価、次に金融システムへの影響。そしてAML/CFT対策だ。総合評価では、3月は「金融システムの効率性と包摂性及びより広く経済を改善する可能性」としていたのを「金融システム及びより広く経済に重要な便益をもたらし得る」と一歩(半歩)前進させている。国際社会では金融包摂、すなわち銀行口座を持たない人々に金融サービスを提供することで貧困撲滅に資するという点を評価している模様だ。アフリカにおけるBitPesaの成功xRapidによる出稼ぎ労働者の本国送金に期待感を寄せているのだろう。ここのコメントが更に前進すればサプライズだ。

金融システムへの影響

次に金融システムへの影響だ。昨年3月は「ある時点で金融安定に影響を及ぼす可能性がある」としていたが同7月に「現時点でグローバル金融システムの安定にリスクをもたらしていない」とされている。実は3月の指摘を受け、世界の金融規制当局の上部組織であるFSB(金融安定理事会)で仮想通貨が金融システムに与える影響をモニターする体制が構築され、半年毎に報告書を出すこととされ、7月時点では仮想通貨市場は規模も小さく問題は無いとされた訳だ。昨年10月の報告書でもリスクが小さいとされたが、今回5月の報告書では急速に進化するエコシステムに対処するために将来を見据えたアプローチが必要とし、国際機関は金融システムの安定だけでなく投資家・消費者保護、市場の健全性、決済システムなどの問題に積極的に取り組んでいるが、法規制が各国バラバラで重大な規制上の非対称を招く可能性があるとしている。その上で、G20に更なる調整が必要かも含め規制とギャップに関して議論する様に勧めている。分かり易く言えば、マネロンだけでなく利用者保護や市場の健全性に関する世界共通ルールを作るべきか議論しろという訳です。今回のG20の最大の焦点はここにあると考えます。

FATF関連

尚、最後のFATFに関してはもうすでに走り始めていて、昨年7月のG20の要請を受けて10月時点でウォレット提供者とICO関連サービス提供者を登録制にする方針を打ち出し、今月中にも詳細なルールを打ち出す事になっています。今のところ出てきていない様なので、首脳会談に合わせて「出してくるのかもしれませんが、首脳会議ではあまり細かい話はしないと思われます。もうすでに2月に草案は出ているが、その際に指摘した点だが、国外の交換所や分散型交換所に対する取締りを強化する方針が出る可能性があるので注意が必要だろう。

  前回(昨年7月) 今回予想
総合評価 金融システム及びより広く経済に重要な便益をもたらし得る 不変or半歩前進。大きく前進すればポジティブサプライズだが可能性は低い
金融システム 現時点でグローバル金融システムの安定にリスクない グローバルな規制議論に踏み込めばポジティブサプライズ。その可能性は高い
AML/CFT ウォレット・ICOサービス提供者を登録制(昨年10月) 可能性は低いが国外交換所やDEXへの規制に踏み込めばネガティブサプライズ

 

日本主導のルール作り

メインシナリオは総合評価やAML/CFTにサプライズは無いが、グローバルな規制議論に言及し、その瞬間は反応が薄いがじわじわとポジティブに反応していくイメージか。本稿でも述べている様に日本の当局は常にこの分野で世界の先頭を走ってきている。今回も、世界の規制をリードしていく可能性が高いと考える。3月25日の産経新聞でも仮想通貨のルール作りに先鞭をつけた日本が先行者利益を享受する可能性を指摘している。共同通信は今月1日AML/CFTの追加対策を2021年までに立案する様に各国に働きかけるとしたが、AML/CFTに限られない可能性もある。FSBの報告書も日本の当局の意向が色濃く反映している可能性がある。FSBの理事長が英国のカーニー中銀総裁から米国のクォールズFRB副議長に交代したことで、日本の当局が動きやすい環境が整ったのかもしれない。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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