なぜ人民元安になるとビットコインが買われるのか?

2019-06-13 09:31[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン

5月の仮想通貨相場上昇の背景のひとつとして人民元や韓国ウォン安が指摘される。中でも人民元はトランプ大統領が2000億ドル分の追加関税をツィートした5月5日頃から下落に転じると、BTCも60万円台から90万円台に急騰した。しかし、5月17日頃に6.9近辺で人民元の下落に歯止めがかかると、BTCは反落、アルトコインに循環物色が入ったこともあり100万円近辺まで上昇する局面も見られたが、総じて上値の重い展開が続いている。WSJによると今月6日にトランプ大統領が更に3000億ドル相当の中国製品に追加関税を課すことも可能だとすると、7日易鋼中国人民銀行総裁がBloombergのインタビューで人民元安容認とも取れる発言、これに対しムニューシン米財務長官は(この1年で)人民元が6.3から6.9に下落したのは偶然ではないとSouth China Morning Post上で牽制、俄かに人民元を巡って米中貿易戦争第2ラウンド(?)が激化し始めている。注目のG20明けの人民元相場は6.93と6.9をブレークした事もあり、BTCのサポート材料となったが、火曜日には6.91に値を戻しBTCの上値を重くした。昨日は人民元の基準値が6.91台と低めに設定されたが、その後6.92近辺へ上昇するとBTCも上昇するなど、BTC市場自体に目立った材料が無い中、やや神経質な値動きが続いている。



そもそも人民元とBTCの相関係数は、5月以降0.5近くまで上昇しているが(相関性が高まっている)、それまではプラスとマイナスを繰り返しており、特に定まった相関関係がある訳ではない。それにも拘らずBTC市場が人民元市場に注目する理由の一つが仮想通貨市場自体に目立った材料が無いことが挙げられよう。どの市場も材料難になると他市場を見に行く傾向がある。ただ、今回市場が注目しているのは、5月に実際逃避買いと思しき動きが観察された事と7を超えるとリーマンショック以来の元安水準となり逃避需要が高まると見られていることが指摘できる。では、何故人民元安が進むとBTCの逃避需要が高まるのだろうか。人民元安になると対ドルで値が立っているBTC価格の元建て価格は上昇するから当たり前の様に思える。ただ、今回の人民元安は3%程度で、その価格要因だけで1日10%動くこともあるBTCに資金が移動したという説明はやや違和感がある。結論を先に言えば、中国本土の投資家は確かに投機的、価格的な優位性も考慮しているが、それ以上にチャンスがあれば資本を逃避したいと考えている層が一定程度存在するからで、人民元安や中国株下落と言った何らかのきっかけで、そうしたフローが殺到するからだと考えている。

少し長くなるが、この背景を説明したい。中国のGDPに違和感を覚えられ方は多いと思う。中国経済の減速が言われるが、ここ5年で6.4-7.5%と安定しており、2015年から2017年までは6.7-7.0%と0.3%の間に収まっている。人間の営みでこんな奇跡が起こり得るとは驚きだ。これが産業別や地方別だとまちまちな数字になるのに、全体の数字はピタッと6%台で安定していて失笑する。一方で、鉛筆の有無はともかくとしてよくこんな6%成長を続けられるという疑問も浮上する。ここから先は小職による推察も含めた分析で、様々な見方はあると思うのだが、実はこうした数字を作り上げる錬金術が中国には存在する。

ご承知の通り中国の土地の個人保有は禁じられている。売買されるのは数十年の使用権だ。人民公社が保有していた土地は今では地方政府などが保有している形となり、農民などに貸し出している。すると農地を住宅地などに転用する場合、貸している農民に幾ばくかの補償料で立ち退かせ、開発業者に使用権を売却する事となる。例えば1ヘクタールの土地を手に入れるのに年30万円の農民に5年分の収入を支払ったとしても補償料150万円。仮に年収100万円として10年分支払ったとしても土地の仕入れ値は1000万円程度に過ぎない。これに対し1ヘクタールの土地を住宅地として1平米10万円で転売すれば10億円になる。仮に1平米5万円としても5億円。これが利益として地方政府の土地開発公社や開発業者の利益としてGDPに反映される。本来、土地の売買はGDPには入らないが、建売住宅やマンションにして売ってしまえばいい訳だ。流石に最近では数千万円払わないと立ち退きをしぶると聞くが、収益と比べれば殆ど無視できる。1ヘクタールで10億円GDPが作り出せるなら、GDPを1兆円増やしたければ10平方キロメートルを開発してしまえばいい訳です。その住宅が売れるか否かはともかく、開発会社の在庫にしただけでGDPは増やせます。そうやってゴビ砂漠の真ん中に100万人収容可能なゴーストタウン(鬼城)を作ってしまった事は記憶に新しい。

そうした過程でうまく蓄財する人が多くいるのも頷けるし、それ以外にも様々な形の儲け方があろうかと思われる。そうした当局に近い人々の中には、いつ資産が召し上げられるか心配している人が相当数存在すると推察される。薄熙来事件ではそうした蓄財や不正送金、政争に負けた側の処遇などの一端を明らかにしてくれた。裁判の過程などで明らかになった海外送金した額は数十億ドルにも上るらしい。これは極端な例としても、中国本土から資産を海外に逃避したいというニーズは根強く、シンガポールやマレーシア、日本でも不動産を爆買いする姿が報告されるのは、そうした背景だ。そうしたニーズのごく一部でも流れ込めば、まだ規模の小さい仮想通貨市場価格は容易に上昇すると考えている。

市場の関心は移り気でいつまでこの人民元との連動が続くのかは定かではないが、この人民元が7を超えるか否かという事はひとつの大きな節目だという事は仮想通貨市場参加者も意識しておいて損は無いと考える。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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