何故リブラでビットコインは売られたのか?比べて浮かび上がる違和感の正体

2019-06-19 19:11[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン リップル イーサリアム

・昨日のリブラのホワイトペーパー発表後、FB社株も仮想通貨相場も下落した。一時的なSell the Factだったのかもしれないが、同ペーパーを見て若干の違和感を抱いたのも事実だ。

・全世界で数十億人の利用などと大風呂敷を広げた割に、お膝元の米議会から異論が出たように、コンプラ面などの詰めの甘さも失望を呼んだが、違和感の正体ではない。

・既存通貨と比較すると、ステーブルコインで、スマートコントラクトで、コンセンサスで高速処理と各分野の通貨の良いとこ取りをした結果、総花的となってしまった。

・ビットコインや、イーサリアムや、テザーがメジャーなのはオリジナルだから。後発は多少の違いでは類似品と扱われる。それが、この違和感の正体か。

・特にSNSという新分野を作り上げた同社だからこそ、市場の過大な期待がかけられ、裏切られた形となったか。

・但し、流石に日次アクティブユーザー15億人の同社が手掛ける以上、ある程度の成功は収めるだろうし、経済のトークン化を世に広める効果も大きいだろう。



ホワイトペーパーを見て抱いた違和感

昨日、注目のFacebookが開発する仮想通貨リブラのホワイトペーパーが発表された。発表直後はサイトへのアクセスが集中して内容が見づらい事もありBTC相場も100万円台を回復したが、その内容が明らかになるにつけ上値を重くしていった。株式市場でもFB株はオープン直後こそ高寄りしたが、その後はズルズルと値を下げていった。この動き自体はSell the Fact的な動きの可能性がある。リブラの件でCFTCと意見交換しているという報道もあり160ドル近辺から上昇を続けた同社株は、昨日寄り付きで194ドルを付けるも188ドルへ反落している。しかし昨日は失速したが160ドルから188ドルまで上昇しているなら十分上がっているではないかとの見方もある。現に株式市場など仮想通貨業界以外のメディアでは「数十億人の利用目標」などポジティブな報道が多い。仮想通貨にしてもリブラが持てはやされ、マスコミへの露出が増えることはポジティブだし、トーマス・リー氏がもうビットコインとブロックチェーンは別とは言わせないと息巻くように、アンチ仮想通貨のルビーニ教授もリブラと仮想通貨は違うというロジックで半分負けを認めている。要は、現時点で何が生き残るか言い当てることは難しいが、世界経済のトークン化は避けられないと多くの人々が認識し始めるきっかけにはなっただろう。しかし、それでも、このリブラに抱く違和感は何だろうか。


期待先行

ひとつには期待先行が過ぎた点もあろう。FBの利用者が数十億人いるからといって、彼らがリブラを使うとは限らない。そもそも数十億のアカウントには不稼働なものも多いだろう。削除しない限りアカウント数は累積していくからだ。米下院金融サービス委員会のウォーターズ委員長が「フェイスブックの問題ある過去を鑑み」、公聴会と開発の一時中止を求めた様に、ホワイトペーパーで個人情報を悪用しないと言われても、どこまで信用できるか未知数だ。この違和感は中国に例えると分かり易い。ブロックチェーンの開発に余念がない中国がBTC取引やICOを制限する理由の一つとして、彼ら独自のCBDCの様なものを発行する可能性を指摘した。その意図の一つが国民の経済活動の監視だ。コンビニでの買い物や電車での移動、懐事情まで国に監視される事など日本人の感覚なら受け入れがたいだろう。しかし、同じことを一私企業にされても気にならないのだろうか。また、前出の米議会に加えて仏ルメール財相もAML/CFTに関する説明責任を指摘、そもそも一私企業が法定通貨を裏付けに世界通貨を発行する事に不快感を示している。要は、当局と根回しをしてコンプライアンスの問題をある程度クリアにしてきたのかと思ったら、お膝元の米議会から異論が出る始末だ。日本から見ても匿名性の部分が資金決済法に抵触するおそれがあるし、このトークンは暗号資産なのか前払式決済手段なのか為替取引なのか法的扱いもはっきりせず、仮に半年後に発行が始まっても、とても日本の交換所で取扱いが可能とは思えない。あえて言えば、国内の交換所でBTCを購入して海外の交換所に送ってBTCからもしくはテザー等を経由して購入するしかなく、当初は余程のマニアしか購入しない(できない)だろう。

利用者が増えるとは限らない

更に言えば、Facebookの利用者が多いからと言って、リブラを使用する人がどれだけいるか分からないという部分もあると考える。今回、同時にデジタルウォレットCalibraも発表されたが、これをダウンロードする人がどれだけいるのか未知数だ。将来的にはFacebook Messenger等でも送金できる様になるのかもしれないが、SNSで送金すること自体は既存の仮想通貨でも対応しているケースもある。ただ、ホワイトペーパーで大風呂敷を広げることはよくある話で、数十億人とは言わなくても数千万人が利用しただけでもビジネス的には大成功なのかもしれない。しかし、ホワイトペーパーを読んだ時に感じた違和感はこうした枝葉末節(?)では無い気がする。

総花的特徴

上図は時価総額上位3通貨とリブラの特性を日本仮想通貨交換業協会の概要説明書とリブラのホワイトペーパーを下に比較したものだ。今朝のDailyで「USTの様なステーブルコインで、XRPの様なコンセンサスアルゴリズムでETHの様なスマートコントラクト」で結局、何がしたいのか将来図をイメージし難かったと申し上げた。そもそも、複数通貨をバスケットとするステーブルコインというコンセプトが分かり難い。例えばドルを55%、ユーロ30%、日本円、英ポンド、人民元を各5%としてリブラの価格を定め、為替レートの変化によってそれぞれの法定通貨建ての価格を変動させようとするのだろうが、為替の世界でもこうしたバスケット制を謳う国は多いが、成功している例はシンガポールくらいしか思いつかない。それでも上下1-2%程度の変動幅は許容している。1リブラ=80円だったものが為替レートの変動で85円になったり75円になったりするのだが、今のレートを84円とするのか86円とするのか誰がどうやって決めるのかが問題となろう。バッファーが大きすぎれば普及しないし、小さすぎればアービトラージの対象となりかねない。かつて、この勝負でイギリス相手に勝利して名を上げたのがジョージ・ソロスだ。更に通貨比率の変更を行うとしたら、普通の国でも管理が容易でないほどの透明性が求められる。

オリジナリティー

ただ、為替レートの管理方法は横においたとしても、そもそも仮想通貨に裏付資産が必要なのかという議論もある。テザー疑惑が決定的となってもテザー価格は崩れなかった。それも、横に置いておこう。では、その疑惑のテザーが何故未だにステーブルコイン取扱高1位にいるのか。個人的にはここまで問題を起こし続けていれば流石に他に取って替わられない事が不思議で仕方が無いし、おそらくは中国本土などに大口の顧客を抱えているのかと想像したりもするのだが、これはテザーにオリジナリティーを認めているからだと考えている。以前、なぜカップヌードルは50年経っても売れ続けるのか、それはオリジナルだからで、その正統性はビットコインがデジタルゴールドとして君臨する事に通じるものがあると申し上げた。数あるスマートコントラクトの中でもイーサリアムに人気が集まっている事も説明がつく。オリジナリティーが無いものは類似品と考える心理が働いているのかもしれない。そうした視点でリブラを見ると、ステーブルコインの良いところ、スマートコントラクトの良いところ、コンセンサスアルゴリズムの良いところ、そうした良いとこ取りをした結果、オリジナリティーが無くなってしまった、それがこの通貨はいったい何なのだろうという違和感に結びついているのではないかと考えている。

トークン経済の広告塔

ここまでリブラに関するネガティブな見方をご紹介したが、そうとは言っても日次のアクティブユーザーが15億人を超えるFacebookが本気でトークン経済に進出したのだから、ある程度の成功は収めるであろう。何より、トークン経済化を進め、認知度を上げる大きな一歩になったと考える。ただ、同社がここまで成長した一因は、今まで世の中になかったものを送り出したオリジナリティーにあると考えていて、そうした企業故に世間の期待が膨らみ過ぎたのだが、今回に関してはバスケット制のステーブルコインというアイデア以外はさほどオリジナリティーが無かったと言ったところだろうか。




松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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