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入門アルトコイン(その2)ビットコインキャッシュ(BCH)

2018-09-13 17:30[ 松田康生

トピック 仮想通貨 bitcoin Bitcoin Cash 入門アルトコイン



(その1)でご説明した通り、BCHはBTCから2017年8月に分岐して誕生した経緯から、1ブロック当たりのデータ量以外の殆どの性質はBTCと同じです。従って、その特徴はBTCとの分裂抜きには語れません。その歴史を紐解くと、話は2015年にまで遡ることになります。まだBTCが分岐していなかった頃のお話です。

第一次ハードフォーク紛争

2014年、サトシ・ナカモトからBTCの開発を委ねられていたギャビン・アンダーセン氏が開発チームを去りました。この事が関係しているか否かは不明ですが、翌2015年彼はBitcoin XTという改善案を発表、本家開発チームのBitcoin Coreと対立します。XTは主に1ブロック当たり1MBの制限を8MBに拡大し、2年毎に倍にしていき最終的には8GBまで引き上げるというものです。というのもブロックが組成される10分毎に1MBだと1秒間に約7取引しか格納できず、よく引き合いに出されるVISAの1秒間約5万6千取引とは隔たりがあったからです。将来的に決済利用を考えるならば避けては通れない道だった訳ですが、BTCを分岐させて新しいBTCを作るというアイデアはなかなかマイナーの支持を得られず頓挫してしまいます。この時のどの提案を採用するかはブロックチェーンを分岐させてマイナーがどちらを支持するかで決めればいいという考え方は今でもBCHで生きています。この反乱に敗れたギャビンは、その後、自称サトシ・ナカモトのクレイグ・ライト氏を支持した角でBitcoin coreへのアクセスを剥奪され、ビットコイン財団からも去ることになります。因みに2012年にBTCの普及活動のため同財団を立ち上げた4名のうち、ギャビンと“Bitcoin Jesus”ことロジャー・バー氏は今ではBCHの応援団となっています。

第二次ハードフォーク紛争

このXTの反乱は収束しましたが、ブロックの容量を増やすという考え方はBitcoin Unlimitedという派閥に受け継がれていきます。一方で、ギャビンが去ったBitcoin Core開発チームはSegwitというデータ圧縮ソフトを実装することでスケーラビリティー問題を解決しようと考え、2017年8月に開始すると提案します。その頃には取引データがブロックに収まり切れず承認が遅延する事も起こっており、対応を迫られた格好です。8月の実装に向けBitcoin Unlimited(拡大派)とBitcoin Core(圧縮派)が対立していたのですが、ニューヨークの会議でSegwitではなくSegwit2Xを実装し、ブロックも2MBに拡大するという妥協がなされました。と、ここで終われば良かったのですが、この合意にはBitcoin Core開発者たちは参加しておらず、結局、この合意は無視されて8月1日にSegwitが実装されることになってしまいました。これに対し拡大派の一部からBitcoin ABCというBTCのブロックチェーンを分岐させて新たな通貨を作るという提案が出て来ます。結局、両者の溝は埋まらず、8月1日にBitcoin Coreが推し進めるSegwitを実装した現在のBTCとBitcoin ABCらが進める現在のBCHに分かれてしまった訳です。未然に防げた前回の分裂騒動との違いは拡大派をマイニング用PCの製造販売を手掛け自らも大手マイナーであるBitmain社などが推したことにあって、Sewitを実装すると同社のマイニング用PCの働きが悪くなる事にあったのではないかと言う見方もありますし、中国系マイナーに牛耳られている状況を嫌ったBitcoin Coreが彼らに有利なSegwit2Xを嫌って独走したせいだという見方もある様です。本家・元祖争いの始まりです。因みにBTCにSegwit2X実装するという合意は8月のハードフォーク後も生きていたのですが、11月に無期限延期とされました。

第三次ハードフォーク紛争

結局、開発者とマイナー達の対立の結果誕生したBCHでは、BTCの様に開発者がプログラムの変更権を独占しているのは民主的ではないとして、Bitcoin unlimited、Bitcoin ABC、Bitcoin Classic(昨年11月に開発停止)など主に3つの開発者グループが競争しあって改善策を提案して、最終的にはマイナーの計算能力をベースに多数決で決める形を採用しました。しかし、今度はこの民主的なシステムが後の分裂騒動を引き起こすことになります。Bitmain社を中心とした6割強のマイナーの支持を背景に開発グループの中で最も力を持っているABC派が今年11月のアップデートに関する提案を出しました。これに2番手グループのUnlimited派が反対します。すると、今度は以前サトシ・ナカモトを名乗って世間を騒がせたクレイグ・ライト氏が率いるNchainがBitcoin SV(Satoshi Versionの意味)を提案、ABC案に対し挑戦状を叩きつけた格好になります。このままではBCHが更に分裂しかねないということで、8月31日にABCの支持者でありBitmain社のCEOウー・ジーハン氏とSVのクレイグ・ライト氏、そしてUnlimitedの代表という訳ではないですがBCH応援団のロジャー・バー氏の3氏が一堂に集まりバンコクで話し合いが持たれました。話し合いと言っても、報道によればクレイグは自分の主張だけして先に帰ってしまったそうで、結局、残った二人が意気投合、ロジャー・バー氏がウー・ジーハン支持を表明して事なきを得た様子です。というのはBTCとBCHのマイニングPCは互換性が強く、BCHだけでなくBTCでも大きなマイニング組織を持つウー・ジーハン派が劣勢となるとBTCからBCHへマイニング組織を移動させることでBTCに悪影響が出たり、昨年のように今度はBCHコミュニティーを飛び出して新しい通貨を作ったり、混乱が大きくなる可能性があるからです。ただ、SV派にもCoingeekというマイニング集団を率いる大富豪カルビン・エアー氏がついており、ハッシュパワー争奪戦、株で言うプロキシー・ファイトの様な状況に陥っており、11月に向けて今後も目を離せません。

民主化

開発チームが複数存在して競争するBCHの民主的な特徴が裏目に出た形ですが、民主的な意思決定が必ずしもベストと言い切れないことは仮想通貨に限った話ではありません。リーマンショック前後では、揺れ動く民意に押されて毎年首相が変わり思い切った経済政策を打てない日本を後目に、強烈なリーダーシップで景気対策を打ち一足先に回復した中国に随分とキャッチアップされ、多くの産業を失った苦い経験があります。それでもBCHのコミュニティーでは民主的な意思決定こそが非中央集権であるビットコイン、ひいてはサトシ・ナカモトの思想を受け継ぐものだという矜持があるのかもしれません。ここにも、本家・元祖意識は垣間見えます。ただ、民主的と言っても最終的には投票権を持つマイナーが実権を握っています。これに対し、BTCはBIP(Bitcoin Improvement Proposal)といって誰でも改善提案を出せて、ネットワーク参加者の多くの支持を集めれば採用されるのですが、最終決定権はサトシ・ナカモトからギャビンを経て受け継がれたプログラムへのアクセス権を握っているBitcoin Coreの開発者になります。結局、開発者とマイナーが対立して、BTCは開発者が実権を握り、マイナーが独立して誕生したBCHはマイナーが実権を握った形です。

将来ビジョン

因みにBCHでは今年5月にブロックサイズを8MBから32MBまで拡大、9月1日にはストレステストと称して1日に2百万件以上の取引の処理に成功しました。これでもまだVISAには遠く及ばないのですが、BCHユーザーがスケールにこだわるのはいつか決済に利用してもらいたいという思いがある様です。BTCの様に1MBのままでSegwitを実装しても2-4MB程度のデータしか格納できず、それでは1秒に7件だったものが14-28件に増えるだけです。Bitcoin Coreの開発者がそれで良しとしているのは、現状のデジタル・ゴールド、価値の保存手段としての使われ方に満足しているきらいがあり、これに対し支払いの手段としての脱皮を模索しているのがBCHという思想の違いもある様です。この様にBTCとBCHには開発者VSマイナーの実権争いと同時に、将来ビジョンの違い、すなわちプログラマー(≒開発者)とビジネスマン(≒マイナー)の発想の違いもあるのかもしれません。相場に対するインプリケーションとしては、確かに価値の保存手段として圧倒的に有利な本家BTCが投資の対象として有望ですが、元祖BCHの決済手段として可能性は無視できず、BTCの補完として一部投資を考えるのが得策かと思います。もしくはファンとなってBCHがBTCを凌駕する未来にベットするという考え方もあるかもしれません。ベータとVHS、優れている方が勝つとは限りませんから。

登場人物

本家Bitcoin サトシ・ナカモト 2008年にビットコインに関する論文を発表、2009年にネット上に発表した謎の人物、複数説も。2010年にギャビン・アンダーセンをBTC開発リーダーに指名、プログラムへのアクセス権などを引き継ぐ。
Bitcoin Core BTCの取引やマイニングをするためのソフト。時に党派として開発チームを指すときもある。サトシから引き継いだ開発チームがのみが元のプログラムにアクセスできる。
拡大派の元祖 Bitcoin XT 2015年にBTCの拡張を提案し大騒ぎになった。ブロック容量を1MBから8MB、と2の階乗で引き上げていくコンセプトはBCHで生きている。
ギャビン・アンダーセン 2010年にサトシ・ナカモトからBTCの開発コードを受け継ぐ。2012年にロジャー・バーらとビットコイン財団を設立。2014年に開発チームを去るが、翌2015年にBitcoin XTを提案するが支持を得られず。
ABC派 Bitcoin ABC BCH開発チームのひとつ。アモーリ・セシェーが開発、バックにはBitmain社がバックにいるとされる。2/3のマイナーが支持。
ウー・ジーハン Bitmain社CEO 昨年のHF時にBitcoinABCを支持しUAHFを主導したと言われる。Segwit下で自社のマイニングマシーンが稼働しないことを危惧した行動とも言われている。
Bitmain 世界最大のマイニングマシーンメーカー。マイニングプールも複数手掛けており、先日のプレIPO時の開示資料でBCHを大量に保有してることが判明。
Unlimited派 Bitcoin Unlimited BCH開発チームのひとつ。BXTの流れを汲み、BCHの拡張を目指しているが、HFは望まない。1/3のマイナーが支持。
ロジャー・バー Bitcoin Jesusと呼ばれる仮想通貨投資家。BCHの応援団として知られる。東京在住。
SV派 Nchain クレイグ・ライト氏が主宰するスタートアップ。Bitcoin SVを提案、ブロック容量を128MBに引き上げるとした。
クレイグ・ライト かつてサトシ・ナカモトを名乗って物議を呼んだ。Nchainチーフサイエンティスト。Bitcoin ABCにBitcoin SVを発表して対抗。
カルビン・エアー カリブ在住の大富豪。Coingeekを主宰。Bitcoin SVの応援団。



松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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