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トランプ政権はビットコインの買い材料?米国が世界の警察に続いて手放したいもの。

2019-07-11 15:42[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン

月曜日に「南海バブル超えたビットコイン、FRB信認低下と歩む」という記事が注目を集めた。CointelegraphでもFRB(連邦準備理事会)への信認が低下する中、法定通貨の代替資産としてビットコインに注目が集まっていると記事を紹介している。記事では「財政拡張に加え、あからさまな政治介入が通貨安定の番人たるFRBへの信認を低下させている」というコメントを紹介している。要は、トランプ大統領の言いなりになって利下げばかりしているとFRBひいてはドルの信認が低下し、BTCに買いが入るという訳だ。これに対し、昨晩の議会証言でパウエル議長は、個人消費は堅調だが、米中貿易戦争の影響で、企業の設備投資マインドが冷えているので、予防的に利下げするというロジックで、言う事は聞くが言いなりではないという体を作ろうとしている。

そもそも、パウエルという人は、法学部出身の学士で投資ファンドなどを手掛けていたビジネスマンで、それまでのバーナンキ・イエレンといった経済学者と若干毛色が違う。ビジネスマンであれば、いい意味でも悪い意味でも最終的にボスのいう事に従うスタンスは体に染みついているのかもしれない。因みに、バーナンキ、ドラギそしてイエレンに決まる前の議長候補だったサマーズの共通点をご存じだろうか。MIT博士課程の指導教官がフィッシャー前FRB副議長だった点だ。そしてイエレンの配偶者アカロフはMITでフィッシャーの同僚だ。すなわち世界の金融政策が一部のMIT学閥からパウエル・ラガルドといった法学部出身の実務家にシフトしている訳だ。すなわち金科玉条のように中央銀行の独立を唱えるのもいいが、所詮選挙の洗礼を受けていない専門家なのだから、最終的には国民の声を聞くべきだという考えもあるし、学者に任せて見てもあまり変わらなかったという考えもあるだろう。少し話がそれてしまったが、以下ではトランプ大統領の考えがいかにBTC相場にプラスに働いているのか考えを述べたい。

トランプ大統領は米中貿易戦争を仕掛け、FRBに利下げを促しており、これだけで十分にBTC相場上昇に貢献している。米中貿易戦争の激化は習政権の足元を揺さぶり、その結果、中国からの逃避買いを招いた。Cointelegraphによれば米国の分析会社メサーリは最近のテザーの発行増もそうした中国からの買いが背景にあるとしている。中国本土居住民は年間5万ドルしか外貨が購入できないので、資産逃避の一手段としてOTC市場でBTCやテザーを購入している可能性がある。特に現政権に近い立場の富裕層は少しでも体制に不安を覚えれば、資産の一部を海外に移転したいと考えるだろう。また利下げはドルの保有メリットを下げ、ドルの価値を減価するもので、相対的にドル建てのBTC価格を押し上げる。更に、投資家のポートフォリオの一部に仮想通貨を組み入れようとする動きも後押しするだろう。

実は、この両者はコインの裏表の関係にあるかもしれないと考えている。米中貿易戦争は突き詰めれば米中の覇権争いで安全保障上の問題なのだが、一方で米国の貿易・経常赤字を削減し、生産拠点の海外シフトで失われた雇用を米国に呼び戻そうとするものだ。特に選挙対策という面では後者の側面が大きい。前回の大統領選の勝因もラストベルトと呼ばれる五大湖周辺の民主党の票田をオバマの地元イリノイ以外で勝利したことだと言われている。そのため、今のところ本気にしている投資家は少ないが、為替に関しても貿易に不利となるドル高を是正するために介入も辞さない姿勢を見せている。この赤字削減とドル安誘導という一見するとどこの国でも考えそうな政策に危険性が潜んでいる。

自国通貨が世界の決済に使用される米国には基軸通貨特権があるとされている。自国通貨が国際決済に使用されると経常赤字が自動的にファイナンスされるため、際限なく赤字を拡大できる。黒字国の日本ではピンと来ないが、米国以外の赤字国はそのファイナンスに苦労し、時として通貨危機を引き起こすが、米国は自国通貨を発行するだけで済み、通貨発行コストと通貨価値の差額、シニョレッジを一手に得ている。それだけでなく、外貨準備がほぼ不要で、為替リスクにもさらされず、長短金利差を享受でき、自国金融機関にも有利に働く。逆に、グローバルなクロスボーダー決済に必要な流動性を供給するため、自国の経常収支は赤字になり易く、国内から見れば雇用を海外に奪われる形にも見える訳だ。

この経常収支をファンディングするため、従来から米政府は強いドルはアメリカの国益と言い続けてきた。ドル安が続くと米国から資金が逃避し、ドル・株・債券のトリプル安に陥りかねない。リーマンショックも2007年頃からドル安・債券安・株安という資金引き揚げが招いた結果という見方も出来る。勿論、資金の引き揚げを起こしたのはサブプライムローンの焦げ付きが原因だったが。これに対し、トランプ大統領はドル安による赤字削減を主張する。これを見て、経済が分かっていないだの冷笑する声も聞かれるが、ドル安を続けることは赤字国アメリカにとって危険だという事くらいは本人も認識していると考えている。では、どういうことかというと、単なる選挙対策かもしれないが、アメリカが基軸通貨特権を放棄したがっている、もしくはいくらか手放してもいいくらい国内の労働者の不満が溜まっているという事を示している可能性がある。

このことを意識してか、無意識にか、前出の日経の記事は「ビットコインの上昇を相場操縦といった近視眼で決めてかかるとドル基軸体制の揺らぎという歴史的変化を見逃すことになりかねない」と喝破している。こう考えると、トランプ政権の存続そのものがBTCの買い材料なのかもしれない。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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