ビットコイン急落を招いたリブラ公聴会。何が火に油を注いだのか?

2019-07-17 20:26[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン

昨日のリブラに関する米上院公聴会を受け仮想通貨相場は全面安の展開、BTCも100万円ギリギリの水準まで値を落としている。この水準は国内勢からの押し目買い意欲がありしばらくは底堅さを見せようが、やはり不正流出等の影響で国内からの買い圧力は後退しており、今晩の下院公聴会でもう一押しある可能性があろう。下は、リブラに対する当局の反応の一覧だ。よくもこれだけ世界中の当局から異論を受けるものだと感心する。それだけFBの存在が当局から恐れられている裏返しの現れか。まだ仮想通貨の規模は小さく金融安定に影響はないと考えていたFSBにとって世界の数十億人に普及させるなら影響は計り知れず、判断を変えざるを得ない、各国中銀にとっても銀行を通さない金融が普及すれば金融創造が鈍り、金融政策が効きにくくなり、更に金融危機時のクッションが失われる。

6月18日 仏財相 リブラは本来政府が担う役割。民間企業が利益追求のために行うべきでない。
6月18日 FB リブラ、ホワイトペーパー公表
6月19日 露下院金融市場委員会、リブラの合法化の可能性は低い
6月19日 BOEカーニー総裁、マインドはオープンだが、ドアはオープンではない
6月19日 米下院金融サービス委員会、リブラの一時開発中止を要求
6月20日 黒田総裁(直接の言及避けつつ)「支払い手段として信認を得られるのか、金融決済システムにどのような影響を及ぼすのか注視したい」
6月21日 露財務省、リブラを禁止しない意向
6月25日 FSBクォールズ議長「小口決済のために新しいタイプの暗号資産が広く利用されるのであれば、高い基準の規制が確実にかけられるように、当局による厳密な審査が必要になる」
6月29日 日経、金融庁、リブラは仮想通貨でない可能性
7月2日 30以上の団体がリブラの一時中止を要求
7月2日 麻生金融相、「リブラ」について「国際連携を緊密に」「必要な対応の検討を進めていく」
7月3日 FB デビット・マーカス リブラとはFBとは別物、FBに対する信頼は不要
7月5日 韓国規制当局、世界的にリブラが利用された場合のリスクを危惧
7月7日 ECBクーレ理事、(規制当局)は、今まで以上により迅速に(フェイスブック社の動向に対して)対応する必要
7月8日 中国人民銀行、リブラの登場が中銀にCBDC開発を急がせる
7月10日 パウエル議長 リブラを深刻に懸念、最高水準の規制対象とすべき
7月11日 トランプ大統領 FBが銀行の役割を果たしたいならば、銀行同様の規制を受けるべき
7月12日 財務省・金融庁・日銀「リブラ」で連絡会設置
7月13日 米SEC、仮想通貨リブラを「ETF(上場信託投資)」として規制する可能性が浮上|WSJ報道
7月15日 英財務相、リブラ規制問題に「英国は阻止しようとはしない」と前向きな見解示す 
7月15日 ムニューチン財務長官、リブラに深刻な警戒
7月15日 IMF デジタル通貨普及で金融政策の機能失う恐れ
7月16日 米上院公聴会
7月17日 米下院公聴会
7月17-18日 フランスG7財務相中銀総裁会議

このリブラが売り材料になることに関して弊社では当初より①期待していた割に総花的でオリジナリティーに欠ける②全世界で数十億人の利用などいう割りに、お膝元の米当局への根回しすらしていなかった脇の甘さを指摘した。そして、各国当局から警戒される理由として、一企業が顧客からお金を預かるなら預金取扱金融機関に準じる規制を受ける必要があるし、それを裏付けに世界通貨を発行すると言い始めたら、国家主権の侵害と言われかねないとして、世界の金融包摂の為の金融インフラを構築すると大風呂敷を広げた結果、虎の尾を踏んでしまったと指摘した。そういう意味で、今回の公聴会が炎上することなど想定の範囲内だったにも関わらず、思った以上に市場は反応した。これは何故だろうか。

因みにCointelegraph社のツィッターによれば、今回の公聴会ではブラウン議員がFB社は危険だとし、クレイ議員は何故スイスに拠点を選んだのか尋ねている。テスター議員は詐欺的な支払いや盗難に関して預金保険やクレジットカードの様な保険はあるのかと質問、ウォーレン議員は個人データを収益化することが得意だったFB社がリブラのデータは利用しないと言っても信用できないとしている。マクサリー議員は過去のFB社の違法行為に鑑みウォーレン議員の懸念はもっともだとし、ブライアン議員はそもそもFB社がやらなければならない理由はなんだと問い、ケネディー議員はFBは企業でなくもはや国だとし、最後の質問でブラウン議員はFB社を信用することは難しいと結論付けた。

公聴会ではリブラのウォレットを作成するFB社の子会社カリブラ社のデビット・マーカス氏だったが、まず規制面で承認を受けるまでリブラは発行しないとして、FB社はリブラの理事会のメンバーの一つで支配力は持たないだとか、子会社なのにカリブラ社が保有するデータとFB社とは隔離されているといったホワイトペーパーを見たらわかるような説明を繰り返している印象を受けた。すなわち、世界の金融を変えると大見得を切ったのに、親会社と子会社で遮断されているから大丈夫といった甘い対応で許されるわけもないし、FB社に加えウーバーやVISAなど世界の名だたる企業が運営しているから安心だとは冗談にしか聞こえない。前にも説明したが、銀行には兼業禁止規制が存在する。この規制は銀行が預かった預金で兼業しているビジネスに過大な融資をするリスクを防ぐもので、また金融資本が資金力で産業界を支配することを防ぐものだが、もう一つ理由があると考える。すなわち、社会インフラである金融を中途半端に始めさせないという意味だ。例えば日本の銀行はそれが本業だから辞めはしない。しかしFB社の場合はどうだろうか。リブラを始めるのに思った以上に規制が厳しくなり、免許取得と規制対応に莫大なコストが必要となり、しかし規制により収益チャンスが著しく制限させられ、このビジネスがコストに見合わないと判明した場合はFB社はそれでもリブラプロジェクトを続けるだろうか?金融の場合、ある程度のビジネスジャッジは有り得るが、一度始めておいて途中で投げ出すことは容易に認められない。そもそも本業だから辞めるという選択肢が無いが、副業で金融に参入しいつでも撤退するでは許されない。そもそも米国のツーウェイ規制ではFB社の銀行業参入は容易ではない。

私企業が開発する仮想通貨は大なり小なりビジネスであり中央集権だ。それを前面に押し出し過ぎると投資家は集まらないので、ホワイトペーパーでは美辞麗句を並べたがる。しかし、FBの場合は、世界の金融包摂の為の金融インフラを構築するという美辞麗句を並べた結果、米ドルを中心とした国際通貨秩序のライバルとして立候補した形になった。これがリブラの踏んだ虎の尾の正体だろう。従って、同社が説明すべきは、同じ美辞麗句を続けるのではなく、自分たちはビジネスをしたいだけであって、国際金融秩序の脅威にならないということであった筈だ。この調子では、リベラが認められる日は遠いだろう。今日明日の公聴会でしばらくリブラは無いという認識が固まるのではないだろうか。そう、昨年のETFのイメージでこれまた2年程度の時間をかけて認められていくイメージでいる。今回の売りはそうしたリブラ棚上げを織り込む動きで、そう長くは続かないと考えている。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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