仮想通貨とは何なのか~欲望の貨幣論2019を視て

2019-07-24 19:35[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン

7月14日(日)にNHK BS1で放送された欲望の資本主義特別編~欲望の貨幣論2019が反響を呼んでいる。早速、20日(土)に再放送されたそうだ。Coinpostでも放送が予告されるなど仮想通貨業界でも話題となっている。仮想通貨の登場以来、「お金とは何か」という問題に焦点が当たってきたからだ。以下では、この番組の内容を踏まえて、仮想通貨とは何かについての我々の考えをご紹介したい。

番組は岩井教授の考えをベースに進められていく。貨幣とは何かという問いに、教授は穀物や貴金属などお金自体に価値があるとする貨幣商品説はとんでもない誤りで、モノとして価値<お金としての価値が貨幣の必要条件だとする。更に政府や王様の裏付けがあるから価値があるとする貨幣法制説も間違いだと指摘する。マリア・テレジア銀貨は1970年代まで使用され、日本でも長く宋銭が流通していたそうだ。仮想通貨には裏付けがないとした批判は瞬殺された。教授は貨幣の価値とは他人が受け取ってくれるという自己循環論によってのみ説明されるとしている。要はみんながそう思うだろう、言い換えれば信用が価値を支えている。価値の根拠がないことがお金の条件だとしている。そうした意味で、何の根拠もない金属から紙、デジタルデータに移っていくのはごく自然な流れだとしている。

弊社では、仮想通貨が貨幣たり得るかという議論で、貨幣の3機能として価値尺度・価値保存・流通手段が取り沙汰されるが、まだ通貨としての機能を果たしていない仮想通貨にそれを当てはめることはナンセンスだと考えている。機能とは別に貨幣として選好される4条件というものがあり、運搬性・保存性・等質性・分割性だ。保存性・等質性で穀物は淘汰され、運搬性で貴金属は淘汰された。そして軽くて持ち運び易く1000年以上続いた紙幣の時代も電子データの方が取って変わろうとしている。給料を現金で支払う電子マネーか仮想通貨は別にしてキャッシュレス化自体は時代の流れだろう。そして最後に仮想通貨の価値の源泉について、貨幣には実物(商品)貨幣と信用(名目)貨幣があり、金貨から兌換紙幣、非兌換紙幣と続いた信用貨幣の進化系としてデジタルデータが登場している。従って、仮想通貨には裏付けも価値の源泉もなく、それがいくらの価値を持っているという信用によってのみ流通していると考えている。

番組ではアリストテレスの、貨幣の誕生によって人々は共同体の束縛から解放され自由となったが、交換の手段である貨幣が人々に可能性を与える一方で、無限の欲望を生み出す。元々、交換の手段だった貨幣を蓄積することが目的化するという洞察を紹介する。岩井教授はお金のやりとりは、使うためではなく渡す(売る)ために手に入れるという純粋な投機だとしている。お金を使っているときに我々は他の人が受け取ってくれるということに賭けて生きている訳だ。将来への不安からお金に対しての欲望が高まれば、モノへの欲望<お金への欲望となりデフレを招き、お金への信用を失うと、モノへの欲望>>お金への欲望となりハイパーインフレを招くなど資本主義社会を不安定化してしまうと考えている様だ。

『21世紀の貨幣論』を著したフェリックス・マーティン氏は仮想通貨への人気を社会契約論のジョン・ロックの貨幣観の回帰だと指摘した。ロックの貨幣観とは「貨幣システムは 厳密かつシンプルなルールに従うべきだ」というもので通貨の発行量は中央銀行金庫にある金(ゴールド)の量に依存するべしとするものだ。しかしニクソンショックにより金本位制が崩壊、更に近年の非伝統的とされる金融政策は故意に貨幣の価値を棄損させることで需要を喚起させようとする。日本ではドル(金)本位制の放棄、赤字国債の発行、成長紙幣原則の撤廃と、日本円の裏付けをできるだけ希薄化しようとしている。そうした中、ロックの主張する厳格な貨幣制度への回帰、それが発行量やルールがプログラムで厳しく決められているBTCなど仮想通貨への人気の背景にあるという訳だ。これも、金融緩和を最大のBTC買い材料のひとつと位置付ける我々の考え方と整合的だ。マネーの本質は信用だから、際限のない中央銀行のバランスシートの拡大に問題が全くないとは言いきれない。

後編の後半は貨幣に対する無限の欲望が社会を不安定化させるという話で、仮想通貨との関係は希薄になるのだが、個人的にここ20年程の企業に常に増収増益を求める風潮には若干疑問を持っていた。バブル崩壊後の90年代後半までは少なくとも日本の銀行のスタンスはそうでは無かった印象を持っている。企業審査とは人で、伝統で、背景資産で、今は赤字でも過去の蓄積があり、伝統や技術を有す企業は良しとされた。しかし、2000年前後の不良債権処理が本格化したころから、増収増益でないといけないし、自己資本の蓄積は資本効率が悪いと糾弾される世の中になってしまった。その結果、コンビニや飲食チェーンは無理をして拡大を続け、メーカーは毎年同じような新商品を産み出し続ける、こうしたことがいつまでも続けられるわけがないのに。そうした事に警鐘を鳴らしているのかと思ったが、仮想通貨で言えば雨後の筍の様に乱立するアルトコインの大多数が未来永劫には存続しえない事を考えると、どこかの段階で激しい淘汰が起こるだろうし、今も進行中なのかもしれない。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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