【第1回】 オプションディーラーの視点 ~オプション建玉分析の重要性について~

2019-07-31 13:53[ SF

オプションディーラーの視点 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン

ビットコイン価格を予測する上で、オプション市場の建玉分析はかかせません。①どの行使期日に、②どういった行使価格のオプション(コールやプット)が、③どれくらいの金額で集中しているかを調べることで、市場参加者(オプション勢)がどの水準で「利食い」を入れ、どの水準で「ロスカット」せざるを得なくなるのかが浮き彫りとなるからです。一般的にこれを「足分析」あるいは「建玉分析」と呼んだりします。

伝統的な為替マーケットであれば、大手ブローカー(Tradition、BGC、GFI、Tullettなど)から日次で届くトレード日報や、Bloombergで閲覧できるDTCCデータを用いて建玉分析を行うこととなりますが、仮想通貨市場の場合、オランダの仮想通貨オプション取引所deribit社が提供する「オプション板」で確認するのが一般的です(※米国の仮想通貨オプション取引所LedgerX社で確認するケースもありますが、deribit社と比べて建玉が極小である為、deribit社の建玉を仮想通貨オプション市場全体の縮図と捉えるケースが多いように感じます)。

それでは、早速、現在の各行使期日別オプション建玉を確認していきましょう。

現在deribitに上場されている行使期日は、8/2(直近金曜日)、8/9(来週金曜日)、8/30(来月の最終金曜日)、9/27(次の四半期末の最終金曜日)、12/27(次の次の四半期末の最終金曜日)の5種類となります。これらの内、ビットコイン相場へのインパクトが大きいものはフロントエンド・オプション(3ヵ月以内に行使期日を迎えるオプション)となりますので、今回は、8/2、8/9、8/30、9/27の4つのオプションの建玉を合算して分析を試みたいと思います。

まず初めに、各行使期日のオプション建玉を合算した棒グラフをご覧ください。こちらが、フロントエンド・オプションの建玉一覧です。個人的には、建玉が1500BTCを超えると、巨大ピン(建玉が特に集中している足)としての分類が妥当と考えております。現在であれば、行使価格1500ドル、6000ドル、7000ドル、8000ドル、9000ドル、10000ドルゾーンに巨大ピンが観測されます。一般的にストライクが集中しているゾーンは、行使期日が近づくにつれてマグネット効果(オプションの巨大ピンに直物相場が吸い寄せられる効果)が生じますので、直近スポット近辺(9700ドル)で言うと、9000~10000ドルゾーンが要注意ポイントとなりそうです。言い換えれば、9000ドル~10000ドルは相場が膠着し易くなる(レンジ相場を形成し易くなる=9000ドルを下回るとキャッシュの買いが発生、10000ドルを抜けるとキャッシュの売りが発生)ゾーンと整理することもできます。

こうした傾向がみられる背景には、オプションの買い手は利食いが先行し(タイムディケイの支払いを期日まで取り戻す必要性があるため)、一方、オプションの売り手は損切りが後手に回る(タイムディケイを受け取っている為、損切りするまでに余裕がある)習性があります。従って、巨大ピンに直物相場が差し掛かってきた場合は、当初はオプションの買い手によるデルタヘッジ(逆張り方向)を通じて、直物相場を止め易くなる傾向が見られる一方、同水準を突破すれば、今度は一転してオプション売り手による損切り(順張り)が発生し、相場を走らせ易くなる傾向が見られます。

例として、直物相場が現在の9700ドル近辺から巨大ピンが観測される10000ドル付近に迫るケースを想定してみましょう。

最初は、①オプション買い手によるデルタ(キャッシュ)の売りが見られますので、相場が止まり易くなります。具体的には10000ドル丁度やその少し上辺りでキャッシュの売りが出てくることから、上値を抑制しやすくなります。しかし、何かしらの材料でオプション勢によるキャッシュの売りをこなして更に相場が上昇した場合、次に発生するのは、②オプション売り手による損切り、すなわちデルタ(キャッシュ)の買いです。この結果、10000ドル近辺で膠着していた直物相場が上方向に走り易くなります。

直物相場が上昇し始めると、今度は、③オプション勢によるトップサイド(行使価格が実勢相場より上のストライク)のオプション購入が活発化します。この際に最も重要なポイントは、どの行使価格帯のピンが増え始めるか否か(例えば11000ドルの建玉が増えるのか、15000ドルの建玉が増えるのか等)。なぜなら、オプションの買い手は基本的に「個人投資家」となりますので、約定時点でのデルタヘッジは行いませんが、オプションの売り手は通常「マーケットメイカー」である為、約定時点でデルタヘッジを行う可能性が高いからです。つまり、個人投資家による11000ドル・コール等のハイデルタ(デルタ値の高いもの)物の買いが強まれば強まるほど、マーケットメイカーによる「デルタヘッジの買い(コールオプションを売却する場合、デルタヘッジの向きは直物相場の買い)」を通じて、直物市場には上昇圧力が加わり易くなりますし、一方、15000ドル・コール等のローデルタ物であれば、デルタ値が小さく、デルタヘッジのインパクトも小さくなります(そもそもデルタヘッジをせずに放置する可能性もあります)。もっとも、11000ドル・コールに買いが集中し、実際に直物相場がその後11000ドルに到達した場合は、今度はオプション買い手によるデルタヘッジの売りが再開しますので、11000ドル付近で再び上値が抑制されることとなります。以降はこれらの繰り返しです。

つまり、オプションの建玉分析は、ある一定時点を切り取ったストック分析よりも、変化を時系列でみていくフロー分析により重要な意味があります。

次回以降も、オプションについての分析記事を掲載していきますので、よろしくお願いします。



SF

赤色メガバンクの市場部門出身。英国ロンドンでチーフFXオプションディーラー → 東京本部でFXマーケットアナリスト → FinTechベンチャーで取締役チーフアナリスト → FXcoinでPM(現職)。為替一筋17年。G10通貨・新興国通貨・仮想通貨まで幅広くカバー。日本経済新聞社やテレビ東京などマスメディアへの寄稿・出演実績多数。Twitter:https://twitter.com/HelloDerivative

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