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意外と不発だったかもしれない中国からの買い。ビットコイン相場のフローの分析。

2019-08-07 21:56[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン

8月に入りサマーシーズン本番かと思われた世界の金融市場だが、米貿易戦争再開により混乱に陥った。きっかけは1日にトランプ大統領が対中輸入3000億ドル分に10%の関税を9月1日から課し、更に25%への引き上げも示唆した。米国の対中輸入額約5400憶ドルのうち2500憶ドルには既に25%の関税を課しており、今回の課税で米国が中国から輸入する物品のほぼ全量課税済みとなる。この追加関税に関して6月末の米中首脳会談で棚上げされ、これが貿易戦争の一時停戦とされたのだが、7月末の米中閣僚会談が不調に終わった事を受けて停戦合意を破棄した訳だ。因みに中国の米国からの輸入は1200億ドル程度しかない。よく米中貿易摩擦が世界のリスクといったトランプ政権に批判的な論調も聞くが、冷静に考えると、これだけ悪化するまで放置していた前政権の方が問題という気もする。即ち、米中貿易ではほぼ一方的に中国が(少なくとも雇用面では)利益を得ているので、現状維持、つまり時間は中国に味方する。そこで、中国は出来るだけ結論を先延ばしにしようとするし、必然的に米国は次々にカードを切って中国を交渉の場に引き摺り出そうとする構図になる訳だ。

すこし脱線するとこの引き上げで米国は年間900億ドル、約10兆円の税収を得る事となる。それは価格転嫁され米国民が支払うことになるという議論もあるが、売り手である中国企業が負担する場合も多いだろう。中国で生産している米企業が被害を受けるという説もあるが、そうであれば米国内に生産を回帰させるチャンスでもある。そう考えると米国側から見れば一石二鳥にも三鳥にもなる戦略的アプローチだ。一方で、今回の混乱の余波で韓国ウォンも急落している。日韓関係の悪化も嫌われたせいか韓国株も下落、プチ資本流出という形になっている。これを隣国の不幸と思っている雰囲気が国内にあるが、ウォン円レートを見て欲しい。ここ今月に入って9.2から8.6に7%近く下落している。これは日本から韓国への輸出品すべてに7%の関税が課せられ、韓国から日本への輸出には7%の補助金が与えられることと同じだ。実は日本には痛い失敗があって、リーマンショック後、ウォン円が13から6.5へ半分になったのに3年半、これを放置した結果、日本のお家芸だった半導体や家電の分野で韓国勢にシェアを奪われた。遂に自動車業界からも6重苦といって悲鳴が上がったところで、何とかアベノミクスで円高が是正されて一命を取り留めた経緯がある。あのままだったら日本経済は決定的なダメージを被っていた可能性もあり、それだけ為替は恐ろしい。今回、韓国中銀はFRBに先んじて先月18日に利下げを実施、ウォン安になった上に代表的な半導体であるDRAM価格は7月に2割以上上昇、韓国の半導体企業は笑いを堪えるのに必死なのかもしれない。それに対し、日本は「さらなる緩和が必要か慎重に検討している」場合でも「過度な為替変動は望ましくない」などと悠長なことを言っている場合ではなく、世界がなりふり構わぬ通貨安競争に入る中、もっと国家戦略的な動きが望まれるところだ。

この様に世界が通貨安競争となる中、BTC相場は堅調に推移しているが、中でも米中対立激化による中国からの逃避需要を指摘してきた。特に、中国共産党の現役指導者と長老が一堂に会すとされる北戴河会議が8月3日より開催され、それを狙ったかのように米国はカードを切り、交渉に引き摺り出した格好となっている。そこで中国から逃避買いが出ると予想していた。実際、5月に同じくトランプ大統領が2000憶ドル分の関税を10%から25%に引き上げるとした際には中国からの逃避買いが相場上昇を演出したと言われている。ところが、交換所経由の仮想通貨取引が制限されている中国からのフローをきちんと把握することは難しい。そこで、CryptoCompareにおけるBTC市場の通貨別出来高のQC部分に注目した。CoinMarketCapによればQC(Qcash)とは人民元建てのステーブルコインで1QC=1CNYで取引され、QCを使ってテザーや他の仮想通貨を直接売買する。因みにCryptoCompareで見ると通貨別でBTC取引で過半数を占めるテザーの更に相手方の過半数がQCとなっている。そこで、BTCに対するQCの出来高を見ると、BTC相場への中国フローの全てを見ることにはならないが、逆に人民元建てのステーブルコインを保有している人の殆どは中国本土の投資家の可能性が高く、中国メインランドからの動向をある程度推察できると考えた。

上はそのBTC取引におけるQCの出来高と価格の推移。5月5日にトランプ大統領が関税引き上げをツィートすると中国からの買いが急増し相場上昇をもたらした。勿論、ミクロで見れば中国からの買いが増えた要因はまちまちだろうが、タイミング的に貿易摩擦激化がマクロで見た大衆心理に何らかの影響を与えたと考える。その後、米中首脳会議など折を見て中国からのフローが増加している。しかし、8月に入ってからこのQC建ての出来高があまり増えていない。それにも関わらず、こうした米中対立激化が相場の上昇材料となっている。これは、このところの相場上昇には別の要因が関わっているのか、中国からの買いを期待した他の参加者が先回りして買っているのか、その両方だろう。前者で考えられるのが米利下げで、下図はBTC取引における法定通貨のUSDとQCとの出来高だが、7月に入って急減していた法定通貨のドル建ての出来高は増加に転じている。尚、出来高の水準自体は米国と中国からのフローを示している訳ではない。中国の場合、QCだけでなくOTCがメインとされているしテザー経由も多いであろう。米ドルの場合、それが米国からのフローなのか、それ以外の国なのか判断しかねるが、それ以前のピークと比べる限り、ドル投資家の需要が相場の上昇を支える一因になっている可能性が高い。また、5月の例を経験した中国以外の投資家が先回りして買いに走ったケースもいくらかはると考える。そうしたポジションはいずれ売りに転じることから、ごく短期的には上値が重くなると見ている。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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