G7サミットで見えた?ビットコイン相場の9月の反騰

2019-08-28 17:40[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン

ビアリッツでのG7サミットが閉幕した。首脳会談に限らずG7と言えば土日にかけて開催される印象が強く、為替の世界ではシドニー時間に合わせて月曜日の朝の4時台に出勤するといったイメージがある。ところが、今回は月曜日の夜に閉幕したようで調べてみると、確かに金・土または土・日と週末に閉幕するケースが多いものの平日に終わる例もある様だ。いずれにせよ、首脳会談や財務相中銀総裁会議に関わらず、G7が閉幕すると共同声明における為替に関するコメントに目を通したものだ。前回「ジャクソンホールだけではない。G7サミットのビットコイン相場への影響」で指摘した通りその声明文は出されなかったが、議長国であるマクロン仏大統領の踏ん張りによって1枚の宣言文章が発表された。そこには5項目のうち4項目はイラン・ウクライナ・リビア・香港という外交案件で、経済に関しては貿易に関する記述が以下の通り簡単に記述されているだけだった。

G7は世界に開かれた公正な貿易、および世界経済の安定を強く望んでいる。各国の財務大臣が、世界経済の状況を継続的に見守ることを期待する。
そのために、G7が世界貿易機関(WTO)に根本的な変化を施すことで、知的財産の保護をより効果的に実施し、紛争を早急に解決し、不正な商業活動を根絶したいと考える。
2020年には経済協力開発機構(OECD)の一環として、規制障壁の簡略化および国際税法の近代化に対する合意を導き出すと誓約する。


正直、申し上げて、この程度の文章なら出さない方が良かったのではないかと考えている。

何故そう思うのかをよりご理解頂くために、少しG7における為替のコメントの変遷をおさらいしたい。為替市場でG7が注目されたのは中国がWTOに加盟し世界貿易の主役に台頭し始めた2003年9月ドバイで開催された財務相中銀総裁会議だ。名指しこそ避けたが中国にドルペッグを辞めるように促したものとして、この時は人民元の代替として円が買われ、1週間で7円円高が進んだ。それ以降、2005年7月の人民元切り上げまで概ね以下のコメントが続く。前段のファンダメンタルズと過度の変動や無秩序な動きとは主に日本を念頭に置いた為替介入の条件となっている。

我々は、為替レートは経済ファンダメンタルズを反映すべきであることを再確認。為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済成長にとって望ましくない。我々は、引き続き為替市場をよく注視し、適切に協力していく。この文脈において、我々は、為替レートの柔軟性を欠く主要な国・経済地域にとって、その更なる柔軟性が、国際金融システムにおいて市場メカニズムに基づき円滑かつ広範な調整を進めるために望ましいことを強調。


2005年7月の人民元切り上げに際し「より柔軟な為替レート制度へ移行する中国当局の決定を歓迎する」とのコメントを出したG7だが、思ったほど進まない人民元高にしびれを切らし「中国の通貨制度の更なる柔軟な運用」「中国の為替レートの一層の柔軟性」「人民元の実効為替レートのより早いペースでの増価(中略)が必要」「人民元の実効為替レートのより速いペースでの増価を促す」とトーンを上げている。リーマンショックに直面すると、それどころではなくなったせいか中国批判はややトーンダウンします。面白いのは、この麻生政権下で進んだ円高に対し2008年10月にG7は「最近の為替相場における円の過度の変動並びにそれが経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得ることを懸念」と助け舟を出してくれたが、その後、対米関係が悪化した民主党政権下では2011年3月の協調介入まで殆ど為替に関するコメントは出てこなかった。この2年半の間の30円に渡る円高は放置され、PCや半導体や携帯電話、液晶TVなど大打撃を受けた日本の輸出産業の多くが国内を去ったのは記憶に新しい。

ところが2012年12月に安倍政権が誕生、日銀と政策協定を結び金融緩和をアベノミクスの3本柱の一つと位置付け、円安が進むと、中国と韓国がブラジルを巻き込み2013年2月のモスクワG20で円安誘導ではないかと突き上げようとした時に、当時財務次官だったブレイナード現FRB理事が空席の財務長官に替わって緊急電話G7を開催、「我々の財政・金融政策が、国内の手段を用いてそれぞれの国内目的を達成することに向けられてきていること、今後もそうしていくこと、そして我々は為替レートを目標にはしないことを再確認する」とアベノミクスによる円安は金乳緩和の結果であって通貨安誘導に当たらないと日本に再び助け舟を出した。

かくして、金融政策を通貨安誘導のために使わない、競争力向上のために通貨安誘導を行わない、というルールがG7およびG20で合意された。すなわち、通貨安競争を行ってはいけないという合意の根拠はG7ならびにG20の声明文しか存在しない訳だ。もっと言えば、その運用もかなり政治的・恣意的に運用されてきており、崇高な経済理論に基づいたものでも何でもない。この合意は2018年3月のブエノスアイレスG20でも「通貨の競争的切下げを回避し、競争力のために為替レートを目標としない」と踏襲され、大阪G20の首脳宣言でも「2018年3月に財務大 臣・中央銀行総裁が行った為替相場のコミットメントを再確認する」とされ、G7では2017年5月にイタリアのバーリでの財務相中銀会議で 「財政・金融政策が、国内の手段を用いてそれぞれの国内目的を達成することに向けられてきていること、今後もそうしていくこと、そして我々は競争力のために為替レートを目標にはしない」とし、2018年6月のシャルボワサミットでも2019年7月のシャンティイ財務相中銀総裁会議でも「現行の為替相場に対するコミットメントを再確認」している。

今回のG7サミットでも現行のコミットメントを破っていいとも、通貨安競争を解禁したとも、言ってはいない。ただ、毎回何らかの形でコミットしているのに変に文章を出してそこに記載しないと、今回コミットはしなかった、出来なかったと市場が解釈することも可能となる。そもそも拘束力が弱いからこそ、毎回確認し続けてきた訳だからだ。何よりも、米大統領は再三にわたり競争力回復させるためにドル高を是正し、その為にFRBに利下げを求めてきたし、少なくとも7月にFRBもそれに応えてしまったが、そのことに歯止めをかけることに失敗している。これを受けて、人民元も2008年2月以来の安値水準を更新している。2010年に始まったオフショア人民元に至っては史上最安値を更新中だ。今は地合いが振るわないBTCだが9月に入り米投資家が市場に戻ってくればこうした状況が意識されるだろうし、人民元安がもう一段進めば今年5月の様に中国本土からの需要も復活するものと考えている。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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