ビットコイン反発の要因探し。バランスシート拡大とは何のことか?

2019-10-10 18:44[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン

月曜日に83万円を付けてから89万円台に反発を見せていたBTC相場だが、一旦86万円台まで反落後、昨日は93万円台まで急騰した。BTCが急騰を始める15分ほど前にETHが急騰しており、直接のきっかけはこうしたアルト主導の上げだったと考えられる。では、なぜETHが上昇したのかと言えば、Devconを挙げる人もいるだろうし、また話題のBinanceのCZ氏がP2P交換所(DEX)でWechatやAlipayを通じた人民元建てでの取引を可と回答した事から同交換所で取引されているBTCやETHの価格が上昇したとする見方もある。中国で言えば、国慶節が明けて投資家が戻ってきたことを相場反発の背景に挙げる声も聞かれる。確かに今週に入って出来高が若干回復基調にある。相場が動いたから出来高が上がったの、出来高が上がったから相場が反発できたのか、まあ両方が相互に作用して今の相場が出来上がっているのだろうが、マイナーの売り圧力が一定のBTC相場において出来高の減少は下落要因だ。

すこし脱線すると、相場が変動する理由は常に需給だ。よく売りたい人が少ない、多いという議論を聞くが、正確には市場における売りと買いの数は常に同数だ。ただ、売りたい人と買いたい人の数は価格によって変動する。例えば小職の2年落ちの日本車でも1000万円ならすぐ売るが10万円なら寧ろ買い増したい。そうした割高、割安の間を往復しながら、売り買いの数が同じになる均衡点を探して相場は上下を続ける。テクニカル分析はこの波形から相場の強弱を読み取ろうとする試みという側面もある。それに対し、上記のような材料から相場を見るファンダメンタルズ分析は、そうした参加者の割高・割安感やコンセンサスに影響を与えた出来事、すなわち人の心を動かすものに注目する方法だろう。株で言えば企業のフェアバリューを分析し、割高・割安をはじき出し、また為替も経済のファンダメンタルズに従うと一応信じられているのだが、仮想通貨の場合、フェアバリューがほぼ存在しないので難しい。しかし、足元の価格は今までの材料をほぼ織り込んで均衡しているとし、過去のデータなどと照らし合わせて、新たな材料が人々の行動を変えるものか、今後そうした事が起こるのかといったことから将来の相場を予想していく事と考えている。このファンダメンタルズ分析を諦めてしまうと、この相場はただの偶然の産物となり、そうした市場に人々の資産を預かる機関投資家が参入することはあり得ない。弊社では、こうしたファンダメンタルズ分析も仮想通貨市場の発展のためのインフラ整備の一つと考えている。

そうした中で、パウエルFRB議長のバランシート拡大表明が、今回の反発の一番大きな要因というか今後効いてくる材料だと考える。バランスシート拡大とは、市中銀行はNY連銀にドル口座を保有、この残高(プラス流通紙幣)がベースマネーと言われている中銀の債務だ。これを増やせば乗数効果が働き市中に出回るお金、マネーサプライが上がり、景気やインフレを刺激するとされている。このベースマネーを必要以上に増やそうとするのが「いわゆる」量的緩和です。よく輪転機を回して紙幣を刷ると表現されますが、実際に紙幣を刷るのではなく、NY連銀にある市中銀行の残高を増やす(連銀の債務を増やす)訳です。すると、何らかの経路で実体経済にも資金がしみ出してくる、これがバーナンキのヘリコプターマネだ。どうやって増やすのかと言えば、市中から国債を中心に様々な金融資産を買い入れ、その対価として中銀預金を増やしていく訳だ。因みに現先やレポなどの通常のオペの場合、資金需要が無くなったら応札されないという問題があるが、国債などのアセットを買い取る場合は価格次第で需要はいくらでも生じるので、バランスシートを拡大し易いとされる。

今回、FRBは今回のバランスシート拡大は短期国債を購入するので量的緩和ではないとしている。すなわち、中銀が短期金利をターゲット内に収めるために行う流動性供給を一般にオペと呼ぶが、単にこのオペを増額するだけだという訳だ。実は2014年に最後の量的緩和QE3が終了した後も激変緩和措置としてFRBは購入した国債やモーゲージの償還分を再投資していた。2017年10月にその再投資を減らし始め、その結果、ベースマネーは2018年3月頃から減少に転じている。こうした長期国債の購入の増減は政策変更だが、短期国債の購入の増減はオペの変更なのでFOMCを通す必要は無いという考えなのだろう。ただこのベースマネーの伸び率と機を同じくしてBTC相場もピークアウトしている。単なる偶然かとも思い2013年12月のピーク時を調べてみても同様の現象が起きていた。これは以前ご紹介した通り、仮想通貨とくにBTCはデジタルゴールドとして、通常時は分散投資対象のリスクアセット的性格を持つが、法定通貨の価値に疑義が生じた場合に限って逃避アセットとしての性格を持つという弊社の考えの根拠の一つともなっている。また、ベースマネーを増やしても、なかなか実体経済に波及効果が薄いとされる一方で資産インフレを引き起こし易いという性格も指摘される。

従って、今回の変更が量的緩和に該当しようが、しまいが、米国のベースマネーを増やす、少なくとも前年比マイナスで市場で流動性がひっ迫する状況を作らない点では変わりはない。更に足元の経済指標の悪化を見れば、FRBがなし崩し的に量的緩和方向に舵を切っても不思議ではない。まさに、BitMEXのアーサー・ヘイズCEOがQE4の到来でBTCは2万ドルに到達するとしたシナリオが現実味を帯びてきた。このヘイズ氏は、多くの人がBTCは底を打ったと思っていた昨年8月に5000ドルへの下落を予想、弱気一辺倒だった昨年末にはETHの200ドル戻しを予想、今年4月の段階でBTCの1万ドル乗せを予想していた。個人的にもドイツ銀行出身の彼の相場の見方には親近感を覚える。因みに今年の3月1日時点で仮想通貨の、既に大底を脱していたにも拘らず、冬はまだ終わらないとコメントした様に100発100中とはいかない様だが、その1か月後に1万ドル予想を打ち出す変わり身の早さにグローバルマーケッツ出身者らしさを感じる次第だ。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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